イベント・お知らせ

インタビュー

インタビュー企画【私のストーリー】第9回:鴛海 奈緒子さん〜人と時間が交差する建物の魅力に取りつかれ、建設業界で生きる〜

福岡キャリア・カフェ ロールモデルインタビュー企画 【私のストーリー】

このコーナーでは、福岡キャリア・カフェ統括コーディネーターの村山由香里氏が、ロールモデルの女性に取材インタビューを行い、それぞれのキャリアの転機や今思うことなどを語ってもらいながら、「100人100色ワタシ色」のキャリアを描くためのノンフィクション物語とヒントをお届けしていきます。

第九回は、鴛海 奈緒子(おしうみ なおこ)さんにお話を伺いました。

鴛海 奈緒子(おしうみ なおこ)さん

有限会社ゼムケンサービス

常務取締役

業種: 建設業

私のストーリー

シンフォニーホールに魅せられて

北九州市の工務店、ゼムケンサービスで、一級建築士として、常務取締役として仕事する鴛海奈緒子さん。「建物が完成した時や、建物が多くの方に利用されている時、それまでの苦労が吹っ飛びます。また、ものを作り上げていく時に職人さんなどのベテランの技術を取り入れることができた時、喜びを感じます。作る前も作る過程も作った後も自分だけで完結しないところが建築のおもしろいところだと思います」と楽しそうに仕事を語る。 そんな鴛海さんは中間市で育ち、吹奏楽に夢中の中学高校時代を過ごした。大きなチューバを抱え、マーチングもした。中学の吹奏楽部顧問の先生は、時折、部員たちを福岡へコンサートに連れて行ってくれた。クラシックや吹奏楽のコンサートの後、お洒落なカフェでお茶を飲みながら、「ヨーロッパでは劇場のホワイエでお酒を飲んだりする」「シンフォニーホールはシューボックス型で音響特性に優れている」など、音楽にまつわる文化や曲が生まれた時代背景などを話してくれた。「音楽って楽しいんだ」と心が躍った。しかし、鴛海さんの心に湧き上がったのは、音楽の道に進もうでも、歴史を学ぼうでもなく、「こんなホールを作ってみたい」だった。

弱みは隠すのでなく活かせ!

大学と大学院で建築学や哲学を学び、中国地方の小さな工務店に入社した。現場を知らない新卒の鴛海さんには右も左もわからない状態だったという。職人はお父さん、おじいさんほど年齢が上の男性ばかり。しかも、鴛海さんは生理痛がひどかった。痛みを我慢して仕事したが、どうしても月に数日はパフォーマンスが落ちる。誰にも相談できず体がもたなくなり、3年で退職した。

28歳、もう一度建築に挑戦したくて入社したのが今の会社だ。代表は女性で、女性の建築建設業従事者を増やすために活動している人だった。ある時、代表に生理痛がひどい話をすると、「女性特有のことで具合が悪くなるのは個性。同じような思いをする人は世界中にいっぱいいる。そういう人の気持ちがわかるのが強みになるからそれを仕事に活かしたらいい」と言われた。

「本当にびっくりしました。もう目からウロコという感じで。自分が弱いから隠さないといけないと思っていたのにそこを活かせと。そんな考え方したことなかったんです」。 「生理がある自分」が常にあり自分の女性性が好きではなかったという鴛海さん。社長の言葉に心が溶けていくような感じがしたという。そして、弱みをどう活かすかは、これからの鴛海さんの問いになった。

私流リーダーシップ

社員全員がリーダー

ゼムケンサービスは、社員全員にリーダー教育をする異色の会社だった。決算書は全員に開示され、毎年策定する中期経営計画の会議には全員が入って意見を言う。また、委員会活動も盛んで社員全員がそれぞれの委員会のリーダーになって運営する。

入社当時、「こんな新米に決算書を見せていいのか?」と戸惑ったが、一方で会社に貢献しようという気持ちになったという。

「どんな立場の人にも経営を教えるという人材育成方針は、死ぬまで働ける仕事だと建築業を選んだ私にとって、技術者というスペシャリストと、役員というゼネラリストのどちらも追求でき、ありがたいことでした」。 社員に少し高い壁を越えるようなチャレンジをさせるのもリーダー教育の一つだ。「ちょっと難しいかなと思うようなものを私はいっぱいやらせてもらったことで今がある」と鴛海さんは語る。失敗した経験も乗り越えた経験もすべてが自分の財産になっている。

女性が現場監督としてリーダーシップを発揮する社会になった

建物を建てるには、企画構想から設計を建築士、職人さんたちと作り上げるまでを現場監督が采配する。現場監督は裁量権も大きいが責任も重い。リーダーとしての力量が問われる仕事だが、必ずしも年齢が高い人が務めるわけではない。ゼムケンサービスは女性建築士が多く、鴛海さんはもちろんのこと、若い社員も現場監督を務める。時間制約のある女性もいるが、会社はワークライフバランスが取れる仕組みづくりを先駆的に取り入れている。

「現在は、女性が建築の技術者として生きるうえで、地域の中小企業で設計も現場監督もやれる環境はとても良いことと思っています」。

リーダーシップで一番重要なものは、「決断すること」だと鴛海さんは言う。形のないものを作るには、決めていくことばかり。施主の思いをくみ取り、人や会社の歴史や未来を建築で表現する。正解のないおもしろさを追及する毎日だ。

音楽ホールが作りたいと建築への道を志した鴛海さん。「あるべきところに自分の進路が定まったな」と思っている。

私のロールモデル

ゼムケンサービス籠田淳子代表の影響は大きく、ロールモデルでもあると思っているが、同じようにはなれないともよくわかっているという鴛海さん。「代表は、空間を体積で理解するというか、空間と時間的な経過、そこに集まる人たちの情報などを多層的につかむ能力がすごくて、魔法のように解決策を出したりするんです」。代表と違うタイプのあり方でこの会社を支えていこうと思っている。

社外メンターとして

#管理職へのチャレンジ

#自分なりのキャリアの見つけ方

#DX推進/ITリスキル

#キャリアと健康の両立

所属事業所概要

有限会社ゼムケンサービス 常務取締役

社員数: 11名

【取材後記】

音楽を通して、建物に集まる人、歴史、情景などを強烈に印象づけられた中学生の頃。建築の道に進み、生理がひどく断念しそうになったが、今の会社で「弱みを開示していい。逆に活かせ」と言われ人生が変わった。人生には、大きく影響を受ける出来事が時にある。それはその人の原点として心に刻まれ、新しい世界を開くきっかけになる。そんなことを感じた取材だった。(取材:文 村山由香里)