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インタビュー企画【私のストーリー】第8回:鐘ヶ江 理恵さん〜九州最大の駅、博多駅の駅長として先頭に立つ〜

福岡キャリア・カフェ ロールモデルインタビュー企画 【私のストーリー】

このコーナーでは、福岡キャリア・カフェ統括コーディネーターの村山由香里氏が、ロールモデルの女性に取材インタビューを行い、それぞれのキャリアの転機や今思うことなどを語ってもらいながら、「100人100色ワタシ色」のキャリアを描くためのノンフィクション物語とヒントをお届けしていきます。

第八回は、鐘ヶ江 理恵(かねがえ りえ)さんにお話を伺いました。

鐘ヶ江 理恵(かねがえ りえ)さん
九州旅客鉄道株式会社

博多駅長
業種: 運輸業

私のストーリー

鉄道事業をほとんど知らず、博多駅長に

鐘ヶ江理恵さんは、1997年九州旅客鉄道株式会社(JR九州)に入社。財務部や経営企画部を経て、JR九州リテール株式会社に常務執行役員専門店事業本部長として出向。2021年に博多駅長に就任した。
JR九州は、1987年の国鉄民営化後、不動産、ホテル、外食、建設と多角化経営をし、今では鉄道以外の事業で全売上の6割を超えている。鐘ヶ江さんが入社したのは変化の真っ只中だった。
経営企画部ではトマト工場を作ったり、メガソーラーを作ったり、JR九州リテールでは土産物店、 コスメ店等の担当役員を務め、財務部では上場に際し格付会社からダブルAの格付を取得するためにリーダーとして奔走したり、さまざまな仕事に従事してきた。本業の鉄道事業は、入社1年目に久留米駅に数か月勤務しただけでほとんど知らなかったという。



今がすべてじゃない。育児には必ず終わりが来る。

鐘ヶ江さんは、2人の子どもを育て、親の闘病に伴走しながら仕事してきた。
「もう、しょうがない、って思ったんです。仕上がりが、目指す100パーセントにはならないんです。仕方なく手抜きして7割くらいで提出したり、『ごめん、よろしく』と誰かに任せて帰ったり」と、子育て中の不甲斐ない思いを語る。
仕事をしながら勉強もする同僚がうらやましくもあった。インプットもアウトプットも充分でない自分。家ではゆっくり座る時間さえない。しかし、第二子の育休復帰から3年後の2012年に管理職に昇格した。「考える」仕事が増えて、短い時間でもパフォーマンスをあげることができ、仕事がおもしろかったという。
今、管理職として、対象の男性社員には育児休業を取得してほしいと勧めている。実際、博多駅では5か月取得した男性社員もいる。「男性の育休取得日数は短いです。共働きだったら2人で取得して、取得時期がずれたとしても、復帰は同時にするべきだと思っているんですよ。育休中の妻がフルで家事育児をし、復帰後も妻がそれを担う流れができてしまう。だから女性の負担が多くなってしまう。復帰を同時にすれば、仕事と家事・育児分担の自分たちの形をイチから作ることができる」。

私流リーダーシップ

部署により、状況により、リーダーシップ発揮の方法を変える

博多駅長は、博多駅の「顔」という一面を持つ。列車の出発式には駅長として先頭で見送りをし、「博多祇園山笠」では山笠の男衆が山笠をJR博多駅前広場に舁き入れて挨拶する時、先頭で迎える。また、メディアの取材も多い。広報活動は博多駅長の重要な仕事だ。
一方で、約140名の社員たちをまとめ、引っ張っていく。鐘ヶ江さんは、社員たちが、仕事に誇りを持ち、楽しそうに仕事をしている時が一番うれしいという。そのためには社員の長所を引き出して磨いてあげることが大事だと思っているそう。
これまで、鐘ヶ江さんは、いくつもの部署でリーダーを経験したが、リーダーシップの発揮の仕方を変えてきたという。財務部では部下に任せることで能力を引き出し、JR九州リテールでは一歩下がって全体を見渡し指示を出していった。また、コロナ禍で土産物が全く売れなくなった時は、土産物店の役員兼事業本部長として強い言葉で社員を引っ張っていった。
「方針を変える時、優しい言葉では効果がない。センセーショナルな刺さる言葉でバン!と言わないと」。コロナ禍で土産物屋を開けていることさえ「悪」のような社会の空気の中で、社員に対して『土産物屋をやめます!』と打ち出した。私たちの事業は土産物屋でなく自宅用の商品を販売する店だと頭を切り替えてもらい、売上につなげていったのだ。

現場のトップが矢面に立つ

博多駅では、最初、一歩引いていたが、途中から方針を変えた。コロナ禍があけ、博多駅が大混雑してきた。お客様から怒鳴られることもある。自ら現場に出て先頭で指揮を執った。現場を知らないトップが机上で方針を決めても、社員たちのつらさや大変さがわからず、社員たちも納得しない。忙しい日は、朝から晩まで社員たちと一緒になって走り回ることもあるという。
駅長が表で走り回るべきではないという批判もある。トップは後ろにいるべきだと。
しかし、今は現場に出てその場で指示を出していくやり方の方がいいと判断して邁進している。「私の後ろには、部長も本部長も社長もいます。駅長は現場のトップなので、今は矢面に立たないと。飛んでくる矢は大きいですからね」。
管理職になると社内外のさまざまな会議に出席することが増える。「女性は発言が長い。空気を読まず発言する」と世間でよく批判されるが、鐘ヶ江さんはものおじせず発言する。しかし、言いたい気持ちを抑えることもあるという。「言わない方がいいよオーラが出ている会議では言わないです。前を向くと言いたくなるので下を向いています」。
しかし、これからはそんな場でも正しいと思うことは発言しようと思っているという。「もともと出世に興味はありませんが、上の人に楯突くのは悪いと思ってきたんです。でも、反対意見でなく、多様な意見は大事ですよね」。波風を立てずに抗う胆力は、今までの会社員人生で充分培ってきたようだ。

私のロールモデル

数々の上司に巡り合った。中でも心に残っている上司の言葉がある。子会社のJR九州リテールに出向している時の社長に言われた「この仕事は君に任せる。責任は俺が取る。自信持って行ってこい」。こんなかっこいい上司になりたいと思ったという。また、40代はじめに、当時の役員から、すれ違いざまに「仕事は楽しいか?」と聞かれ、「今は、楽しくないです」と答えた。すると、「仕事そのものが楽しいかどうかじゃないんだ。要はその仕事を楽しめるかなんだよ」と言われ、ハッとした経験がある。何かあるたびにその言葉を思い出す。

社外メンターとして

#管理職へのチャレンジ

#結婚・出産のライフプランとキャリア

#子育てとの両立

#介護との両立

所属事業所概要

九州旅客鉄道株式会社

社員数:7311名(2023年4月1日現在)

【取材後記】

JR九州の女性管理職率は6%。女性社員率は16%。男性社員が圧倒的に多い鉄道会社でキャリアを積んでいくことはどんなに大変だったことだろう。鐘ヶ江さんは変化に強い人だ。新しい事業やコロナ禍の危機でも明るくその力を発揮してきた。変化に適応できるだけでなく、変えていく力を持つ、まさに新しい時代のリーダーだ。2024年春には異動とのこと。新しい部署での活躍が楽しみだ。
(取材:文 村山由香里)