インタビュー
福岡キャリア・カフェ ロールモデルインタビュー企画 【私のストーリー】
このコーナーでは、福岡キャリア・カフェ統括コーディネーターの村山由香里氏が、ロールモデルの女性に取材インタビューを行い、それぞれのキャリアの転機や今思うことなどを語ってもらいながら、「100人100色ワタシ色」のキャリアを描くためのノンフィクション物語とヒントをお届けしていきます。
第七回は、長廣 百合子(ながひろ ゆりこ)さんにお話を伺いました。
長廣 百合子(ながひろ ゆりこ)さん
Logista株式会社
共同代表 CEO
業種: サービス業(結婚・子育て支援)
私のストーリー
夫と2人で夫婦の対話メソッド『夫婦会議®』を開発
第1子を出産した翌年の2015年に夫と起業し、夫婦の対話メソッド『夫婦会議®』を開発した長廣百合子さん。2児を育てながら、より良い家庭環境を創り出す夫婦であふれる社会を目指して、夫婦の対話サポートを行う子育て支援会社を経営している。
出産後、多くの夫婦は家事・育児の協力体制や働き方に悩みがちだが、長廣さんもその当事者の一人。「夫婦でキャリアを考え対話すること」が重要だと考え、『夫婦会議®』のセミナーを開始した。そのツールである「世帯経営ノート」「夫婦会議ノート」の販売部数は1万9千部を超えた(2023年末時点)。
起業当初は自主開催が中心のセミナーだったが、徐々に行政関連の依頼が増えた。男性の育児休業対象者向けに必須研修として導入している自治体もあるという。また、最近では女性活躍推進やDE &Iに力を入れる企業からの研修依頼も増えている。
そんな長廣さんだが、はじめから夫婦や子育ての分野に使命感を燃やしていたわけではない。
「わたし」から「わたしたち」へ
新卒で入社した大手就職情報会社で採用のコンサルティング営業として6年間がむしゃらに働き、28歳でセミナー講師として独立した。キャリアデザインやリーダーシップ開発などに打ち込み、経営者団体の実践型インターンシップの事業創設にも携わった。
29歳で結婚、30歳で第1子を出産すると一変した。家事育児を全て担う自分と、深夜まで働き帰宅する夫。育児をはじめとした家庭のことや仕事復帰に向けた相談を持ちかけても、夫は「任せるよ」「好きにしていいよ」と言うばかり。次第に産後うつになり、離婚も考えた。「家の仕事も外の仕事も協力し合い、一家団らんを実現できる夫婦でいよう」と誓い合った結婚当初の理想から遠のいていく。それでも「わたし」だけでなく「わたしたち」で育む未来をあきらめたくなかったという。
「家事育児は妻の私だけの仕事?」「なぜ私だけが働き方を変えるの?」自分に問い、夫にも問い、「わたしたちとして、どうする?」と対話を重ねてきた経験が長廣さんの「今」につながっている。
私流リーダーシップ
当事者だからこそ、「変える」力を持つ
長廣さんが最初にリーダーシップを発揮したのは、小学6年生の時だという。
小学1年生の頃から5年間いじめに耐え、5年生のある日、ついに母に打ち明けた。母に言われたのは、「おかあさんはあなたの味方。あなたは悪くない。だけど、誰それちゃんを変えたいとか、クラスの環境を変えたいと思うなら、百合子、あなたが変わりなさい」。
自分に非がなくとも変われという母の言葉は衝撃だったが、「自分が変わる」ことに挑戦するうちに、「問題を認識している自分が立ち上がらないといじめはなくならない」という使命感が生まれたという。小学校には児童総務委員会という生徒会のような組織があった。児童総務委員会に入り、6年生の時に児童総務委員長に選ばれた。就任コメントで、「いじめをなくす」ことを宣言した。
「給食時間にずっとうつむいて食べていたり、昼休みが終わるまで給食を食べ続けていたりする子はいじめられている可能性が高い」など、いじめにあっている子の特徴を先生と共有し、いじめをなくすための取り組みを始めた。
突き動かすのは社会に対する使命感
長廣さんは、「すべての人がリーダー。一人ひとりが何らかの分野やフィールドで自分の資源を最大限に発揮できる」と言い切る。
会社は共同経営社者の夫と2人だけで社員はいない。しかし、認定講師「夫婦会議サポーター®︎」や、自身の『夫婦会議®︎』の体験を記事で発信する「夫婦会議アンバサダー®︎」として活動する仲間は全国30人近くに広がっている。その一人ひとりが当事者意識を持ち、リーダーシップを発揮することで『夫婦会議®︎』の考え方を世に広めていく。
長廣さんは、いじめを受けた経験を「いじめをなくす」という使命感へと昇華し、周囲の人や環境が変わることを体験した。その後も運動会の応援団長を女子児童でも担えるよう慣習を改革したり、大学時代に交流イベントの団体を立ち上げたりと、新しい何かを生み出してきた。
今、夫婦の課題を社会の課題と捉え、世に訴える長廣さんに人が集う。リーダーシップには、トップの強い思いが必要だ。長廣さんのマグマのような思いが、事業推進の原動力になっている。
私のロールモデル
両親をはじめ、「出会うすべての人」が結果的にロールモデルになっているという長廣さん。例えば、「作法」は母から、「嗜み」は父から。夫からは「利他の心」を、子どもたちからは「人が人間へと成長する様子」を学んでいるそう。
一方で、人は無意識のうちに良くも悪くも影響を与え合うという自覚から、「それ以上のこと」を真似たり参考にしたりしないよう努めている。「自分を他者でいっぱいにしない。まず、自分の心の声を大切にできる自分であること。それが結果的に大切な人を大切にすることにつながると思っています」。
社外メンターとして
#自分なりのキャリアの見つけ方
#子育てとの両立
#結婚・出産のライフプランとキャリア
#起業・フリーランスの働き方
#子育て期の離職(休職)を経てのキャリア形成
#夫婦関係
所属事業所概要
Logista株式会社 共同代表CEO
社員数:2名
【取材後記】
会社経営で重要なものにトップの理念がある。なぜこの会社を作ったのか、どんな未来を築きたいのか、この会社の存在意義は何かを言葉にし「経営理念」や「ミッション」として社員や取引先に伝える。強い思いに人は集まり、リーダーシップを発揮できる。長廣さんは離婚の危機を契機に、対話し考え抜いたことが理念となり事業につながっていった。『夫婦会議®︎』の考え方が広まれば、男性の育休取得が当たり前の社会が実現するかも、と期待した。(取材・文 村山由香里)