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インタビュー企画【私のストーリー】第16回:松田理恵さん〜男性育休ゼロから100%へ、急速アップのヒミツ〜

福岡キャリア・カフェ ロールモデルインタビュー企画 【私のストーリー】

このコーナーでは、福岡キャリア・カフェ統括コーディネーターの村山由香里氏が、ロールモデルの女性に取材インタビューを行い、それぞれのキャリアの転機や今思うことなどを語ってもらいながら、「100人100色ワタシ色」のキャリアを描くためのノンフィクション物語とヒントをお届けしていきます。

第十六回は、松田 理恵(まつだ りえ)さんにお話を伺いました。

松田 理恵(まつだ りえ)さん

株式会社タカギ

総務人事部長

業種: 製造業
従業員数 男性694名 女性771名 合計1,465名

私のストーリー

平等に働きたい、その思いが出発点

2019年0%、2020年5%、2021年80%、2022年96%、2023年100%。2024年に90%と下がったとはいえ、日本全体での2024年度40%の数字と比較しても、株式会社タカギの男性育児休業(育休)取得率(会社独自の育児休業含む)の推移は、驚異的な数字だ。

松田理恵さんが2020年に中途入社した現在の企業で、人事課担当課長として最初に取り組んだのが、この「男性の育休取得率アップ」だった。入社時、松田さんは長い営業職経験を生かして営業で活躍するつもりだったが、「ふくおか女性いきいき塾一期生」という経歴を見た当時の取締役から「女性活躍を担当してほしい」と抜擢された。ジェンダー意識の強い松田さんにとって、まさに「やりたい仕事」だった。

「男女雇用機会均等法が施行された翌年くらいだったと思うんですが、小学生の頃、テレビでお茶くみをしている女性を見て衝撃を受けたんです」

社会に出たらこんなに男女差があるのかと驚き、「自分は対等に働きたい」と強く思ったという。

子育てと仕事。毎日倒れ込むように眠った7年

松田さんが新卒で入社したのは浄水器メーカー。営業職は男性の象徴のようなポジションだったが、あえてそこに飛び込み、男女平等に働ける道を選んだ。当時、その会社では営業職の女性が妊娠すると退職するか、育休復帰後に内勤に異動するのが慣例。だが松田さんは第一子出産後、「営業職を続けたい」と希望した。

「できるわけない」という周囲の言葉を跳ね除け、九州圏内を日帰りで駆け回り、夕方は保育園のお迎えに行った。「その日に福岡に戻る」と決めていたからこそ集中力が増し、営業成績はむしろ向上した。全国トップの実績を出したのは、時短勤務中のことだった

しかし、毎日壮絶だった。家庭はほぼ9割がワンオペ。
「子どもを寝かしつけた後、気絶するように眠り、翌朝また出張先へ」

2人目の育休から復帰して半年後に課長に昇進したが、両立という言葉では到底追いつかない日々が7年続いた。解放されたのは夫が夕飯担当を担ってからだという。

15年勤めた浄水器メーカー退職後は「上場を経験したい」と転職したが、結局、上場は実現せず、3社目としてタカギに入社した。

私流リーダーシップ

男性育休は女性活躍のトリガー

タカギで人事課担当課長として女性活躍推進を任されると、社内公募で「意識改革」「制度整備」「キャリアパス」の3チームを立ち上げ、施策を実施した。キャリアアップ研修や個人面談を通して、キャリアを諦めている女性社員がいることもわかってきた。

「男性育休は女性活躍のトリガー」と考え、男性の育休取得率向上に挑戦。調査を始めると、そもそも取得率を算出したことすらなかったことが判明した。 男性育休取得率が進まない最大の壁は、「給料が下がる」「昇進に響く」という不安だった。そこで、配偶者の産後に最長20日間の特別有給休暇を取得できる「育トレ制度」を設けた。これにより、給与も評価も下がらずに1ヶ月の育休を取れるようにした。その翌年、男性の育休取得率は一気に80%に跳ね上がった。

管理職への説得は「妻の愛情曲線」で

制度改革をするには、社内の理解と経営会議での承認が必要だ。松田さんは経営委員会で、渥美由喜氏(ダイバーシティ&WLBコンサルタント)の「女性の愛情曲線」のグラフを示しながら社内上層部一人ひとりに説明した。

「出産直後、妻の夫への愛情は急降下します。夫が家事育児に積極的に関わり、夫婦で感情の共有をすれば回復するけれど、それをしなければ低迷したまま。皆さんは回復グループですか? 低迷グループですか? 部下が低迷グループで産後クライシスを抱えたままでいいですか?」

入社半年後、社長が女性に交代し「自由にやったらいい」と背中を押してくれたのも追い風になった。経営委員会では命を懸ける覚悟でプレゼンを行い、施策が通った時は本当にうれしかったという。

今、松田さんは総務人事部長をしながら、DE&I推進担当を兼任している。「女性活躍」という言葉が世の中から消えるまで、働く女性の支援をしたいと挑戦を続けている。

「自分らしく働きたい」「社会を少しでも動かしたい」「未来を変えるためなら、やる」

松田さんの言葉は、現場で闘い続けてきた人の重みを持っている。

私のロールモデル

特定の「この人」というロールモデルはいない。影響を受けたのは、32歳の時に参加した「ふくおか女性いきいき塾」で出会った、エネルギーが高くて仕事もプライベートも全力で楽しむ受講生仲間たち。社外のつながり、経営者とのつながりができ、活力ある女性たちとの出会いが生きる指針となった。

社外メンターとして

以下、テーマについて御相談に乗ることができます

#管理職へのチャレンジ

#自分なりのキャリアの見つけ方

#子育てとの両立宗

#結婚・出産のライフプランと キャリア

所属事業所概要

株式会社タカギ

従業員数:1,465人

【取材後記】

あすばる館長時代に次世代女性リーダーを育成する「ふくおか女性いきいき塾」を開講した。そこで松田さんと出会って13年。こんなに成長して、会社を変えるリーダーに育っていることに感動した。その言葉には圧倒的な熱量と説得力があり、何よりも明るい。松田さん世代が変える未来が楽しみでたまらない。(取材・文 村山由香里)