インタビュー
福岡キャリア・カフェ ロールモデルインタビュー企画 【私のストーリー】
このコーナーでは、福岡キャリア・カフェ統括コーディネーターの村山由香里氏が、ロールモデルの女性に取材インタビューを行い、それぞれのキャリアの転機や今思うことなどを語ってもらいながら、「100人100色ワタシ色」のキャリアを描くためのノンフィクション物語とヒントをお届けしていきます。
第十四回は、吉谷 愛(よしたに あい)さんにお話を伺いました。

吉谷 愛(よしたに あい)さん
フロイデ株式会社
代表取締役社長
業種: システム開発
私のストーリー
「家賃が払えない」から始まった起業の道
システム開発のフロイデ株式会社をはじめ、5つの会社を経営する吉谷愛さん。起業の始まりは、結婚直後の危機にあった。
北九州市で生まれ、地元企業で事務職やプログラマーとして従事した後、29歳で結婚退職。「憧れの専業主婦生活」から3週間後、夫が病気で会社に行けなくなった。このままでは家賃が払えない。だが、夫は自宅でなら仕事ができるという。
そこで、吉谷さんは、片っ端から電話をかけ、プログラマーの仕事を探し始めた。ついに獲得した1件の契約で、50万円の報酬を手にしたのが起業の第一歩だった。そこから次々と仕事が舞い込み、無職の友人たちにプログラミングを教えながら、社員を増やし、会社は成長してきた。「仕事を通じて、手に職のない人たちにスキルをつけてもらう」。これが今のフロイデ株式会社の原点となった。

「無職・フリーター1,000人をエンジニアに」
会社経営の道のりは決して平坦ではなかった。リーマンショックで仕事が激減した際、吉谷さんは、大胆な行動に出る。夫と社員たちを福岡に置いたまま、1人で東京に移住したのだ。飲み屋で知り合った人の名刺を頼りに突撃営業を行った。手応えを感じると半年で夫を呼び寄せ、東京で地方の案件を請け負う「ニアショア開発」の基盤を築いていった。ここで待望の子どもが生まれるという喜びもあった。
福岡に戻ると、「無職やフリーターの人1,000人をエンジニアにする」をミッションに掲げた。学歴や職歴に縛られず、スキルさえあれば活躍できる社会を目指し、事業を拡大。2019年、売上8億円規模となったフロイデ株式会社の社長を後任に譲り、会長に就任した。休む暇もなく、障がい者の就労支援事業所「あいふろいで」と、システム開発会社「フロイデギズモ」を設立し、社長に就任した。「あいふろいで」で精神障がいを持つ人々をエンジニアとして育成し、「フロイデギズモ」で採用する。自分の得意とする事業で社会貢献を続けている。

私流リーダーシップ
率先して動き、見せるリーダーシップ
経営者として20年近く活動してきたが、「リーダーとしてどうあるべきか」という問いに、常に向き合ってきた。「こんなふうに動いてほしい」と思っても社員たちは思うようには動いてくれない。「自分と同じ方向を向いてほしい」と思ってもそうならない難しさを感じてきた。そんなときは、理詰めで諭したり、「いいからやって!」と泣き落としたことすらあるという。
試行錯誤を重ね体得したのは、言葉で伝えるより行動で示し、自分が率先してやる姿を見せることだった。また、「早い段階から共有する」「部下が話しかけやすいように、にこにこしている」ことも、リーダーとして気をつけていることだという。
「100人以下の会社って、社長の考え方次第だと思う。小さければ小さいほど影響力が強くなる」
だからこそ、社長は自分を磨き、今日より明日と成長し続ける。
40代でバトンを渡し、また次の事業へ
吉谷さんは、40代で社長交代した理由を、「私が得意なのは、ゼロからイチにすること。100人規模の会社経営は私には向いていない」と語る。決断したものの事業継承は予想以上に難しかった。「経営トップとしての判断が、すべて自分の手を離れていく」。寂しくはあったが、会社をより成長させるためには、経営のバトンを渡すことが必要だと確信している。
「事業承継は、組織の文化をどう残し、進化させるかが重要」。現在は、陣頭指揮は社長に任せ、グループ全体の最終的なマネタイズを担いながら、障がい者支援や新規事業の立ち上げにも注力している。「リーダーが変われば、組織も変わる。その変化を楽しみ、次の世代に託すこともまた、経営者の役割」。そう語る吉谷さんの眼差しは、未来を見据えている。

私のロールモデル
吉谷さんのロールモデルは、ディーエヌエー(DeNA)の南場智子さん。いつも穏やかで、にこにこしながらも、高い目標を掲げる。コンサルタントとしての鋭い視点を持ち、課題解決に向き合う力もある。そのバランス感覚に魅了され、自身の経営にも生かしているという。南場さんのような、「周囲の力を引き出しながら、組織を動かすリーダー」を目指したいと思っている。
社外メンターとして
#自分なりのキャリアの見つけ方
#起業・フリーランスの働き方
#子育てとの両立
#管理職へのチャレンジ
#DX推進/ITリスキル
#子育て期の離職(休職)を経てのキャリア形成
#結婚・出産のライフプランと キャリア
所属事業所概要
フロイデ株式会社
従業員数:78人
【取材後記】
「ピンチはチャンス」とはよく言われるが、吉谷さんほどそれを体現している人はいないかもしれない。夫の病、経済不況、さまざまな危機を乗り越えて今や社会的な意義を持つ事業へと成長した。「ゼロから新しい価値を生み出す力」、それは、吉谷さんの持つ最大の武器だ。40代で経営のバトンを渡す潔さにも驚いた。潔く手放し、次々と事業を立ち上げる。これからまたどんな新しいことが始まるのか、吉谷さんから目が離せない。(取材・文 村山由香里)