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インタビュー企画【私のストーリー】第12回:今村 友香さん〜人生すべてが酒造り。九州初女性杜氏の挑戦。〜

福岡キャリア・カフェ ロールモデルインタビュー企画 【私のストーリー】

このコーナーでは、福岡キャリア・カフェ統括コーディネーターの村山由香里氏が、ロールモデルの女性に取材インタビューを行い、それぞれのキャリアの転機や今思うことなどを語ってもらいながら、「100人100色ワタシ色」のキャリアを描くためのノンフィクション物語とヒントをお届けしていきます。

第十二回は、今村 友香(いまむら ゆか)さんにお話を伺いました。

今村 友香(いまむら ゆか)さん

若波酒造合名会社

製造統括

業種: 酒類製造業

私のストーリー

大好きな日本文化の風景が家にあった驚き

2024年、日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されることが決まった。しかし、その「伝統的酒造り」は、かつていや今でも多くは男たちのものだ。蔵は長く女人禁制の伝統が続いていた。

九州でただ1人の女性清酒杜氏として酒造りの現場を率い、また社内を女性が活躍できる仕組みに変えてきたのが今村友香さん。

今村さんの実家は100年続く日本酒の蔵、大川市の若波酒造。キャリアの始まりは、父の病気のため、内定を辞退し、京都から実家に戻った時だった。家の犠牲になったと鬱々としていたが、秋、酒造りが始まる時、蔵の光景に目を見張ったという。

「お供えの酒、魚、米が山積みに積まれお祓いが始まる。笛の音が鳴り祝詞があげられる。神主、杜氏、蔵人(くらびと)が並んで厳かに安全祈願をする。すると、蔵人たちが一気に職人の目になるんです」

京都の大学を選んだのは、伝統芸能の世界が好きで日本文化に身を置きたかったから。しかし、自分の好きな風景が家にあったことに心底驚いた。 「蔵には入ったことがなかったんです。女性は立入禁止だったし」

居場所を見つけるために必死で勉強

翌日から毎日蔵に入った。

「タンクの中でお米が糖化と発酵を同時に行うんです。硬いお粥みたいな状態からだんだんお米が溶けてプクプクと泡が出てくる。翌日にはふわふわの泡だらけになって、ある時ふわふわがなくなって、ガスがポコポコと出てくる。酒造りの風景はすごいと思いました」

時間ごとに変化してお酒ができる様子がたまらなく面白かった。

父の病はほどなく回復したが、今村さんは酒造りをしたくて実家に残った。だが、蔵の娘に居場所はない。あらゆる勉強会に足を運び必死で勉強した。いつも女性は1人だけ。一番前の席に座り必ず質問した。

今村さんの本気度を見て、惜しげもなく自分の知識や歩んできた酒造人生を教えてくれる別の蔵の先輩杜氏も現れ、徐々に仲間と認められるようになってきた。

2008年から7年間杜氏を務め、後進に譲った。

「杜氏を経験したからこその補助ができるし、若波酒造は次の一歩に行かなくては」と未来を見つめている。

私流リーダーシップ

道具や工夫次第で女性でもできる酒造りに

酒造りは過酷な作業だ。

1年のうち約8ヶ月間は生き物相手の仕込みが続く。数時間ごとにタンクの醪や麹を見て、香りや音をチェックする仕事は、1日も怠ることなく夜中も続く。

洗米では、流れる冷たい水の中で長靴を履いて3時間作業する。体はしんしんと冷える。熱々の米を20キロ抱えて、数秒以内にタンクに入れるという作業もある。温度と時間が勝負なのだ。今村さんは頑張っても15キロしか持てない。すると誰かが1往復多く走らなければならず、迷惑をかけてしまう。

そこで、今村さん用に車輪付きの台車を作ってもらい20キロの米を運べるようにした。道具や工夫で女性でもできるように変えていくと、結果的に男性の作業負荷も減らすことになり、さらにはラベリング等、他のポジションで働く女性たちが酒造りをやってみたいと言ってくるようになった。今では、蔵で働く半数は女性だ。主婦や小さい子を抱え時間制約のある女性が多いので、パズルのように組み合わせてスケジュール管理している。

「酒を醸して、人を醸して、文化を醸す」

福岡県酒類鑑評会で最高位を受賞するなど杜氏として実績を積んできた今村さんだが、10年前に交代した。酒造りももちろんするが、製造統括という役職で「蔵創り」を担当する。人材育成、文化的な地域との関わり、設備投資などが役目だ。

杜氏をしている時、「あれもしたい、これもしたい」と次々と蔵の変革へのアイデアが湧き上がってきた。しかし、杜氏である以上、8カ月もの間、酒造りに拘束されてしまう。今の立場は、その頃やりたかったことの実現でもある。

「社長を務める弟と9代目杜氏の庄司、製造統括の自分の3本の矢で強固な体制ができていると思います」

様々な機械が開発され、例えば、夜間作業等も廃止できる環境になってきた。若手や女性が働きやすい蔵にするためにも時代に合わせた働き方・蔵の設備投資を行っていくが、五感をフルに使う酒造りを最も大切にしていくと3人で決めている。

今のメンバーで創った企業理念は、「酒を醸して、人を醸して、文化を醸す」。

「日々の料理や農業、地域…生活の様々なことからヒントを得て、人生すべてが酒造りにつながっています」

女人禁制といわれた業界で時代を切り開いてきた今村さんが居場所を探し求めて見つけた先は「人生すべて」と言い切れる酒造りだった。

私のロールモデル

酒造りの世界に飛び込んだ当初、ロールモデルはいなかった。15年くらい前、「蔵女性サミット」という全国の女性杜氏が集まる勉強会に参加した時、初めて同じ境遇の人たちと会った。「あんな酒造りいいなあ」「あんな蔵いいなあ」と触発された。ライバルがいることがすごくうれしかった。九州という枠から出て、ライバルでありロールモデルの女性たちと出会えた。

社外メンターとして

#自分なりのキャリアの見つけ方

#管理職へのチャレンジ

#介護との両立

所属事業所概要

若波酒造合名会社

社員数:13人

【取材後記】

戦後、ビールや焼酎、ワインと人々の嗜好が多様化し、幾つもの蔵が閉じた。農業者が農閑期に蔵人として寝泊まりして酒造りをするやり方から通年での社員採用に変わったのも大きな変化だった。「SAKE」が世界でもて囃されるようになったのは最近のこと。地方の小さな蔵で女人禁制の伝統を打ち破り、女性が働ける職場に作り上げていった今村さん。今村さんに憧れて酒造りをしたいと全国から若者がやってくる。今年も今村さんの情熱が籠った新酒が出来上がるのが待ち遠しい。(取材・文 村山由香里)