イベント・お知らせ

インタビュー

インタビュー企画【私のストーリー】第10回:笠 淑美さん〜三方よしのフェムテック事業で健やかな未来を次世代につなぐ〜

福岡キャリア・カフェ ロールモデルインタビュー企画 【私のストーリー】

このコーナーでは、福岡キャリア・カフェ統括コーディネーターの村山由香里氏が、ロールモデルの女性に取材インタビューを行い、それぞれのキャリアの転機や今思うことなどを語ってもらいながら、「100人100色ワタシ色」のキャリアを描くためのノンフィクション物語とヒントをお届けしていきます。

第十回は、笠 淑美(りゅう よしみ)さんにお話を伺いました。

笠 淑美(りゅう よしみ)さん

一般財団法人ウェルネスサポートLab(ウェルサポ)

代表理事

業種: 医療・福祉/ヘルスケアサービス

私のストーリー

ちょっとした不調を相談できるフェムテックのサービスはこうして生まれた

最近、フェムテックという言葉をよく耳にするようになってきた。Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語で、生理、妊活、妊娠期・産後、更年期など女性特有の健康課題をテクノロジーの力で解決するための製品・サービスを指す。

まさに、そのフェムテックのサービスにいち早く取り組んだのが笠淑美さん。

個人や家族の健康を、看護師がチャットで看護サポートする月額制のサービス「かかりつけナース(フレンドナース)」がそれ。今では、個人契約だけでなく、健康経営に力を入れる企業との契約も増えている。また、訪問看護、見守りのサービスもあり、ちょっとした不調から終活までサポートする。2019年にスタートし、2020年に一般財団法人ウェルネスサポートLab(ウェルサポ)として法人化した。

フリーランス支援の仕事をしていた数年前、1人の看護師から相談を受けた。

「時間に制約のある病院勤務でなく、フリーランスで看護師の仕事ができないだろうか」。

笠さんは、ヤングケアラーの経験もあり、ちょっとした不調や家族の病気の相談を専門家にできたらとニーズを感じていた。そこで生まれたアイデアが「かかりつけナース(フレンドナース)」だった。働く人のニーズ、サービスを受ける人の健康、地域や社会の役に立つという三方よしの事業を構築し、その相談してきた看護師、菊池美保さんと一緒にスタートした。

遺贈意志のもとに一般財団法人を設立

フレンドナースの法人設立には逸話がある。

始めたばかりの頃、医療機関からの紹介で退院支援の一環としてひとり暮らしの90代女性の週1回定期訪問が始まった。すると、この活動に大変共感してくれ、その女性の遺贈意志により一般財団法人を設立したのだ。40代の時にご主人に先立たれて、お子さんがいないこの女性は、財産をどこかに遺贈したいと考えていたのだそう。現在の法人オフィスは、彼女が最後まで凛として生きた終の住処だ。

「おそれ多かったですよ。見ず知らずの私たちをそんなに信頼してくださって、喜びよりも責任の方が大きかった」と笠さん。法人設立後、その女性には事あるごとに事業の成長を報告し、2年後、手を握りながら看取った。

「遺贈していただいたものはその方の意志に沿って大切に使わせていただきます。定期的にお墓参りがてら報告も行っています。とても励みになっています」。

私流リーダーシップ

目指しているのは、管理者のいない自律分散型の組織

経済産業省のフェムテック関連補助金を受託して、詳細なアンケート分析とともにフレンドナースのパンフレットを作成したり、フレンドナースのニーズを測る実証実験をしたり、事業拡大のために大きな予算を取ってくるのは、笠さんの仕事だ。

しかし、笠さんがリーダーとして指示命令を出すことはない。

ウェルサポのスタッフは、看護師や健康運動士、終活を担当する社会福祉士、助産師や管理栄養士などの専門家で構成されている。管理者のいない、個々人が役割を発揮する自律分散型組織が、笠さんの目指す組織だという。

どんな組織を作り、どんなスタッフを集めて仕事を進めていくかは、経営者の仕事だ。経営者の考え方で組織は形作られ、いかようにも変化する。

「でもそれも私だけでは決めたくない。意見吸い上げ型の組織でありたいと思っています」。

実は、組織作りの原型は新卒で入った設計事務所にあった。

「ランドスケープの設計事務所はトップダウンの組織ではなく自律分散型なんです」 その所長は、今でも法人の経営を相談する良き先輩だ。

メンバー全員で共鳴しながら行動するためにしていること

「自律分散型の組織であるためには、メンバーの一人ひとりが、仕事ができる人材でないとうまくいかないですよね?」と問うと、「できる人を集めるというより、この組織に入ると自ずとできるようになっていくことが大事だと思っています」と笠さんは答える。

そんな仕組みづくりのために大事にしているのが、1対1の面談、1on1(ワンオンワン)だ。

設立間もない頃、面談するスタッフと話が合わなくて悩むことがあった。「健やかな未来を次世代に届けていく」という大きな価値観は一緒なのだが、細部が異なり話が噛み合わない。

その時、知り合いに紹介されたのが、「人生の輪」というコーチングで用いられるツールだった。仕事・キャリア、健康、人間関係など8つの項目で輪を区切り、10点満点で自己採点し現在の価値観と満足度を視覚化していく。これを使い始めるとスタッフと共通の言語ができて、面談がスムーズにいくようになった。

設計事務所で仕事をしていた頃、人をデザインすることが地域をデザインすることにつながるのではないかと思い、そんな仕事がしたいと思っていたという。今の仕事は、働くこと、人が動くことをデザインする仕事でもある。ちょっと夢に近づいている気がする。

私のロールモデル

こんな生き方がしたいと30代の頃から憧れているロールモデルは、ジェーン・バーキン。エルメスのバーキンというバッグのモデルになった女優だ。「自分らしさという芯を確立しながらも、品格とカジュアルさを合わせもち、堂々と生きている様に憧れます」。

社外メンターとして

#自分なりのキャリアの見つけ方

#子育てとの両立

#起業・フリーランスの働き方 #キャリアと健康の両立

所属事業所概要

一般財団法人ウェルネスサポートLab(ウェルサポ)

職員・活動メンバー数:40名(ボランティアスタッフ含)

【取材後記】

サブスクでネット契約し、ちょっとした不調や家族の病気や介護についてチャットで相談できる「フレンドナース」という新しいサービスを世の中に生み出した笠淑美さん。看護師の働き方改革にもつながる事業だ。世の中に全くないサービスを創出できる起業家は少ない。法人設立のドラマも感動的だが、時代のニーズをくみ取り、アイデアを実現していく手腕に驚きの起業家だ。(取材・文 村山由香里)